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日本脳脊髄液漏出症学会
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日本脳脊髄液漏出症学会
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【硬膜外自家血療法((EBP:epidural blood patch)、ブラッドパッチ)について】
脳脊髄液漏出症において、安静や補液等の治療に反応しない場合に適応となる。機序は、注入した血液の硬膜圧迫による髄液圧と量の増大効果(mass effect)、および血液による癒着・器質化による漏出部位の修復効果である。従ってEBPの成功には血液が確実に漏出部位を覆うことが重要である。
硬膜穿刺後頭痛(PDPH:post dural puncure headache)では、一般に腰部の穿刺部位近傍で漏出が起こる。したがって,二つのRCT研究によってEBPの明らかに有意な効果が示されている6,7)。一方、特発性や外傷性では漏出部位が必ずしも腰部とは限らないため有効性が低いという報告がある。確実な漏出部位への投与を行うために透視下EBPが推奨されている4)
頭蓋内に硬膜下水血腫を合併した症例ではその大きさや意識状態を考慮して、血腫除去術とEBPのどちらを優先すべきか、あるいは同時に行うかなどを判断する必要がある。また、EBP後に硬膜下水血腫の増大を示す症例もあり注意を要する。

表1:硬膜外自家血注入(EBP)の種類


【硬膜外自家血注入(EBP)の種類と方法(表1)】

1)非透視下EBP(表1左)
PDPHに対するEBPでは、一般に硬膜穿刺部位が判明しているため治療部位の決定は容易である。また穿刺の容易さと安全性の点から腰部硬膜外から非X線透視下で血液投与が行われることがほとんどである8)。非透視下EBPの手技について解説する。
【非透視下EBP手技】
①患者はベッド上で側臥位または腹臥位になる。
②上肢の静脈より無菌的に20mL程度採血する。
③腰背部を消毒して硬膜穿刺を行った部位あるいは1椎間尾側を刺入点とする。局所麻酔を行った後に非透視下に硬膜外穿刺を行う。硬膜外腔の確認は気脳症や血液の拡散障害などを予防するため、生理食塩水を用いた抵抗消失法で行う。
④血液を15-20mL投与したら終了する。
⑤数十分間仰臥位で安静にする。
ただし非透視下EBPでは硬膜外穿刺の正確な位置、および血液の確実な拡がりを確認できない欠点を持つ。したがって脳脊髄液漏出症に対する治療では、下記のようにX線透視下EBPが推奨される。

2)X線透視下EBP(表1右)
非X線透視下の盲目的な硬膜外穿刺では、麻酔科専門医でも確実な正中への硬膜外穿刺は容易でない。特に肥満や脊椎彎曲などを合併した症例では難易度が上昇するため硬膜外腔の誤認や、硬膜穿刺やくも膜下注入の可能性がある9)
X線透視下EBPによって硬膜外穿刺が容易かつ確実となり、不意の硬膜穿刺や神経損傷などの合併症の予防に加え薬液の拡がりを同時に確認でき、血液の追加など確実な投与が可能となる。
特発性及び外傷性脳脊髄液漏出症では、漏出部位は頸椎から仙椎までのいずれの部位でも起こる可能性がある10,11)。画像診断検査によって漏出部位を特定し、その部位への十分な血液投与を行うには、X線透視下EBPが必須といっても過言ではない。本法の欠点には造影剤アレルギーと被爆があるが、確実な治療による合併症の予防との利益・不利益を考慮して行うことが重要である。
【X線透視下EBPの手技】(図1)
①体位は透視台/手術台上で腹臥位とする。穿刺部位の棘突起が椎体の正中を保つよう透視装置を調節する。治療中に不用意に動かないように指示する。
②硬膜外穿刺は、正中法・傍正中法いずれでも良いが、頚・腰部では正中法、胸部では傍正中法にて穿刺すると容易なことが多い。漏出部位近傍で硬膜外穿刺を行うが、複数部位の硬膜穿刺で広範囲の血液投与も可能である。造影剤を混合した血液を投与することで血液の拡散が確認でき、投与範囲の確認や不足部位への追加投与がリアルタイムで可能になる。
③硬膜外腔の確認は生理食塩水を用いた抵抗消失法で行う。
④血液採取には2-3本の20mLの注射器を用意して、それぞれ自家血を前腕などから無菌的に採取する。その後、各注射器にイオトロランあるいはイオヘキソールを加えて(血液:造影剤比=4~5:1)計20mLとしよく振盪する。
⑤透視下で確認しながら血液投与を行う。背部痛や神経痛は、偏位や拡散不良を示唆することが多く注入を休止または中止する。血液注入は、注入時痛や放散痛の有無、意識レベルを確認しながらゆっくり行う。頭蓋内血腫や水腫を合併した症例では急激な脳圧の変化によるけいれんや意識消失の可能性がある12)。目標部位への血液拡散が不十分な場合には、硬膜外穿刺を追加して血液を追加投与する。
⑥脊柱管前方での漏出例では、治療後に約30分間腹臥位を保つこともある。
⑦治療翌日に感染徴候の有無をチェックする。抗生剤投与は通常は不要である。数日の安静後退院可能となる。


図1:X線透視下硬膜外自家血注入(EBP)の手順

EBPは2012年に先進医療として認可され、その後2016年に保険診療収載された。その保険点数は800点(8,000円)である。また厚生労働大臣が定める施設基準(表2)に適合して地方厚生局長等に届け出た保険医療機関において行われる場合に限り算定できる。

表2:硬膜外自家血注入の施設基準
(1)脳神経外科、整形外科、神経内科又は麻酔科を標榜している保険医療機関であること。
(2)脳神経外科、整形外科、神経内科又は麻酔科について5年以上及び当該療養について1年以上の経験を有している常勤の医師が1名以上配置されていること。また、当該医師は、当該療養を術者として実施する医師として3例以上の症例を実施していること。
(3)病床を有していること。
(4)当直体制が整備されていること。
(5)緊急手術体制が整備されていること。
(6)当該処置後の硬膜下血腫等の合併症等に対応するため、(2)について脳神経外科又は整形外科の医師が配置されていない場合にあっては、脳神経外科又は整形外科の専門的知識及び技術を有する医師が配置された医療機関との連携体制を構築していること。

参考文献
1)Mokri B. Spontaneous Intracranial Hypotension Spontaneous CSF Leaks. Headache Currents 2004; 2:11-22.
2)Sencakova D, et al. The efficacy of epidural blood patch in spontaneous CSF leaks. Neurology 2001; 57:1921-1923.
3)石川慎一, 他.透視下硬膜外自家血注入法の実際. 脊椎脊髄2006;19:378-385.
4)Berroir S, et al. Early epidural blood patch in spontaneous intracranial hypotension. Neurology 2004; 63:1950-1951.
5)橋本和昌.硬膜外持続生理食塩液注入が有効であった脳脊髄液減少症の5症例.麻酔2011; 60: 661-665.
6)van Kooten F, et.al: Epidural blood patch in post dural puncture headache: a randomised, observer-blind, controlled clinical trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry 79:553-558, 2008.
7)Seebacher J, et.al: Epidural blood patch in the treatment of post dural puncture headache: a double-blind study. Headache 29: 630-632, 1989.
8) Safa-Tisseront V, et.al: Effectiveness of epidural blood patch in the management of post-dural puncture headache. Anesthesiology 95:334-339, 2001.
9) van Kooten F, et.al: Epidural blood patch in post dural puncture headache: a randomised, observer-blind, controlled clinical trial. J Neurol Neurosurg Psychiatry 79:553-558, 2008.
10) 石川慎一,他.脳脊髄液減少症と診断した難治性外傷性頚部症候群25症例の検討.ペインクリニック2008;29:1363-1370.
11) Schievink WI, et al. Spontaneous spinal cerebrospinal fluid leaks and intracranial hypotension. J Neurosurg.1996; 84:598-605.
12)Kardash K, et.al: Seizures after epidural blood patch with undiagnosed subdural hematoma. Reg Anesth Pain Med 27:433-436, 2002.
文責2021.1.23 姫路赤十字病院 石川慎一

参考資料 ①非X線透視下EBP②X線透視下EBPの診療報酬点数について

 

参考資料 ①非X線透視下EBP②X線透視下EBPの診療報酬点数について
図1:硬膜外自家血注入(EBP)治療 現行の診療報酬

図2:硬膜外麻酔(硬膜外穿刺手技) 部位による診療報酬のちがい

図3:脳脊髄液漏出症 症例の頸胸椎MRI

図4:脳脊髄液漏出症 症例のへのX線透視下EBP

 

図5:硬膜穿刺後頭痛と脳脊髄液漏出症の比較

図6:現行の診療報酬から算出した望ましいX線透視下EBP診療報酬

図7:脳脊髄液漏出症へのX線透視下EBP 診療報酬案

 

 


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